ドキュメンタリー映画『無音の叫び声』で描かれる農民詩人木村迪夫の世界


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無音の叫び声ー木村迪夫
© 『無音の叫び声』製作委員会
4月9日(土)より東京・ポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開

 こんにちは 上野まり子です。
今日は企画・製作・配給が全て山形発というドキュメンタリー映画をご紹介する。

木村迪夫

 “自分は虫けらのような生き方でなくて、物を見、発言のできる百姓にならなければならないと思った”と語る農民詩人・木村迪夫(みちお)氏は山形県牧野村(まぎのむら)に在住し長年農業を営んでいる。貧しい小作人の 家の長男に生まれ、戦後自作農となったものの高度成長時代の傍ら、長年社会の底辺での生活を 強いられた。

 父親と叔父を戦争で亡くし、大家族を支えた母や祖母。その視点から60年以上にわたり戦争の非道を詩に綴ってきた。それらは16冊の詩集に結実し、数々の詩人賞を受賞、日本農民文学の最高峰ともいわれている。

木村迪夫

 50歳の時に編集長を務めた戦争被害家族の手記集「遥かなる 足あとー40年たった戦没家族の手記」(山形県遺族会)のなかで、『「戦争」は「狂気」である。その「狂気の時代」を生み出したのは日本軍国主義の実権者たちであった』としつつも、『彼らの一方的な責任のゆえだけであったのか、私たち国民に露程の責任がなかったと断言できるのか。 民衆の「軽蔑と思いあがりの思想」が日本の軍国主義思想にはずみを加え、東南アジアの植民地化へと突っ走っていく結果を招いてしまった私たち国民もまた侵略者の側として責任を問われなければならない』と記している。

 監督は農民の懐深い精神世界を描きたいと長年農村を取材し、記録映画やドキュメンタリー番組を撮り続けきた原村政樹氏。人知が及ばぬ大自然の猛威に対峙しながら豊穣な自然の恵みを実感し生きる人々をテーマに描いてきた。『海女のリャンさん』(2004年)で「キネマ旬報文化映画ベスト・テン」第1位を受賞以来数々の賞を受賞。本作がフリーとなっての第1作目となる。

 構想から5年、2013年から2年を費やし完成した本作。原村監督は「“もの言わぬ農民”と揶揄されてきた東北農民の心の奥底にはとてつもない情念を秘めているのではないか。小さな農家の人々こそ、何千年もこの日本の農業を支えて来たのではないかという想いを木村氏を通じて伝える事が出来ると確信し製作を決意した」と語っている。

 映画は「芸術は芸術家だけが生み出すものであろうか」という言葉で始まる。山形の自然溢れる中で農作業する姿。懸命に広げてきた田んぼは継ぐ人もなく、悔しい想いを口にする。第二の父でもある農民詩人・真壁仁との出会いや友人の日本画家・草刈一夫氏との交流など地方の豊かな芸術・社会文化など、木村氏の暮らしを通じてその想いが語られる。

 詩を発表するだけには収まらず、村に映画製作プロダクションを呼び寄せ映画製作に加わったり、さらにアメリカ軍が管理する太平洋・ウェーキ島での遺骨収集活動ではアメリカ政府に上陸交渉をするなど活動派でもある木村氏の数々のエピソード。中でも印象的なのは戦争で息子(木村さんの父親)を亡くした祖母が口ずさんでいたという詩。日の丸の赤を詠ったそれは強烈であり、当時の母親たちの悲痛な想いが深く現されいる。

 木村氏の農民詩や人生は、我々に何を問いかけようとしてきたのかー。市民プロデューサー400人以上参加した『無音の叫び声』は4月9日(土)よりポレポレ東中野にて公開。

【今日の一言】
 東京で行われた試写会には木村ご夫妻も来場、その誠実なお人柄は映像にもまして伝わって来た。
 そして山形なまりで朗読して下さったのは日本の国旗日の丸を詠った木村さんの祖母の詩。映像中で最も印象深いシーンでもある。文字を知らなかったため歌という形で遺したというそれは痛烈である。
 戦後時を経て生まれた者にとって“戦争”はどこか現実味が乏しい中、木村さんの祖母の詩は当時の母親たちの底知れぬ深い哀しみを感じさせ、一気に心を揺さぶり涙は頬を伝っていった。

木村迪夫


無音の叫び声ー木村迪夫
© 『無音の叫び声』製作委員会
4月9日(土)より東京・ポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開
公式サイト

【概要】
『無音の叫び声』
2015年/日本/日本語/122分
4月9日(土)より東京・ポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開
初日4/9(土)上映:10:20/15:10
★初日来場者特典!
先着限定で山形県産米「つや姫」もしくは牧野村の写真セットのいずれかをプレゼント!
公開記念イベント情報
監督・構成・編集;原村政樹
プロデューサー:高橋卓也、阿部啓一、桝谷秀一、阿部洋子、宮沢啓、玉津俊彦、原村政樹
語り:室井滋
朗読:田中泯 木村迪夫、栗田政弘
特別鑑賞券¥1,300円(税込) 絶賛発売中
当日一般1,700円  シニア・大学・専門1,300円
高校・中学1,000円  小学700円
公式サイト
上映劇場情報
4月30日(土)以降は直接劇場にお問い合わせ下さい。
なお、本作は配給の申し込みも受け付けている。
お問い合わせは映画「無音の叫び声」製作委員会(高橋)
info@eiga-muon.net
080-9639-9212

また無音の叫び声―農民詩人・木村迪夫は語るも発売中。

原村政樹監督の前作『天に栄える村』(2013) 特別上映
東京・ポレポレ東中野
4/2(土)〜4/8 連日15:10より
料金:1300円均一
※『天に栄える村』の半券提示で「無音の叫び声」当日一般料金(1700円)が200円引。


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