上野まり子のアジアンスター

『もうひとりの息子』が「東京サクラ グランプリ」受賞。TIFFクロージングセレモニー、記者会見レポート

25th TIFF受賞者

こんにちは 上野まり子です。
10月20日から開催されていた「第25回東京国際映画祭」が28日閉幕した。
最終日、会場となったTOHO シネマ六本木ではグリーンカーペットに続いてクロージングセレモニーが行われた。スクリーン7で午後2時より行われたセレモニーでは「東京 サクラ グランプリ」始め各賞が発表となり、授賞式が執り行われた。

ロレーヌ・レヴィ監督 コンペティション「東京 サクラ グランプリ」に輝いたのは『もうひとりの息子』、 ロレーヌ・レヴィ監督は最優秀監督賞も受賞し、2冠となった。登壇した監督は2つの賞を受賞できるとは信じられない。2人の脚本家およびクルーに感謝するとし、イスラエルとパレスチナの子供たちにこの映画を捧げると受賞挨拶をした。
『もうひとりの息子』受賞者 また初来日となったヴィルジニー・ラコンブプロデューサーも信じられない、審査委員、映画祭関係者、ロレーヌと息子のようになったジュールに感謝するとした。主演したジュール・シトリュク氏は独創的な役を演じる機会、そして人生を変えるような経験をさせてくれたロレーヌに感謝するとした。

コンペティション国際審査委員長のロジャー・コーマン氏は、依田チェアマンおよび映画祭のスタッフのホスピタリティに対し感謝する。コンペティション部門はどの作品も映画の素晴らしさとその力を示す作品だった。各々の作品は世界の異なる国、異なる文化背景で作られているが、人間性という共通のテーマが描かれていた。たとえ国は異なっても、人間は平等な関係にある。そして素晴らしい人間であることを願うと挨拶した。

依田チェアマン 来年3月に5年の任期を終え退任する依田チェアマンは第25回目に相応しい素晴らしい審査委員をお迎えできて本当に嬉しく思う。「映画の力」を信じて発信してきた。就任初年にエコをテーマに創設したグリーンカーペット、およびTOYOTA Earth Grand Prixにご協力頂いた関係者に感謝するとした。そして次期東京国際映画祭代表の株式会社角川書店椎名保氏を紹介し、クロージングセレモニーを締めくくった。
その後会場ではフォトセッションが行われ、それぞれトロフィーを胸に晴れやかな姿を見せた。
また公式クロージング作品、クリント・イーストウッド主演「人生の特等席」のロレンツ監督による舞台挨拶が行われた。


TIFF

その後、場所をアカデミーヒルズ49Fスカイスタジオに移し、国際審査委員および受賞者の記者会見が行われた。
まずは国際審査委員長 ロジャー・コーマン氏はじめ国際審査委員のリュック・ローグ氏、滝田洋二郎氏、エマニエーレ・クリアレーゼ氏、部谷京子さんによる会見が行われた。

ロジャー・コーマン委員長 ロジャー・コーマン委員長は、素晴らしい運営だった。依田チェアマンはじめスタッフに感謝するとし、穏やかな雰囲気の中で建設的な話し合いが行われ、グランプリには満場一致で『もう一人の息子』が決定した。1948年以来小さな土地をめぐってイスラエルとパレスチナが争っている。この映画ではイスラエルとパレスチナを平等に描き、センシティブなテーマを扱って、「人間は皆平等」であることをしっかりと伝えていると授賞理由を述べた。作品賞は監督が素晴らしいことは当然で、最優秀監督賞が同作品の監督に与えられたことに不思議はない。作品の品質を基準に選考した。「ドラマのエッセンスは葛藤だ」と表した。

リュック・ローグ リュック・ローグ氏は数多くの素晴らしい作品を観ることが出来た。審査員に選ばれた事を感謝する。受賞者の登壇は我々にとっても特別な瞬間だった。

滝田洋二郎 滝田氏は映画を1日に3本観ることはきついだろうと思っていたが、いまだ映画的体力があると再認識した。現実的で人間の葛藤を見せる作品が多く、世界中が困窮や愛情の欠如など多くの問題を抱え疲弊している感を強く抱いた。現実を描くだけではなく、未来への希望や明るさを見出せる作品との出会いを望んだ。国際映画祭でなければ観られない作品を観る事が出来て楽しかった。素晴らしいセレクトで、一本見終わるごとに論議した。またコールマン委員長をビッグダディと呼び、コールマンファミリーになった気分で最高の出会いに感謝するとした。


部谷京子 部谷さんはバラエティーにとんだ作品群で、全ての作品が興味深く賞に値する。母性をテーマにした作品が多く、国や年齢が違っても根底にあるものは同じだという感を抱いた。
エマニエーレ・クリアレーゼ エマニエーレ・クリアレーゼ氏は今回の審査委員で映画が一本出きそうだと前置きし、これまでも審査委員を経験してきたが、今回ほど意見の一致を見たことはない。映画は社会の鏡で、若い世代がどのように生きて行くべきかを見失っている。また母親、女性も生きる目的、価値観の持ち方がわからない。それが大きなテーマになっていると今映画祭の作品傾向を解説した。また映画祭の運営について非常にプロフェッショナルだったと評した。


東京サクラ グランプリ
『もう一人の息子』

『もう一人の息子』
© Rapsodie Production-Cité Films

<受賞者会見>

『もう一人の息子』受賞者
(左:主演ジュール・シトリュク 中央:ロレーヌ・レヴィ監督 右:ヴィルジニー・ラコンブプロデューサー)

ロレーヌ・レヴィ監督 ロレーヌ・レヴィ監督は“Thank you Tokyo, thank you Japon”と受賞の感動を表し、この日を一生忘れない。心よりお礼を申し上げる。この作品が受賞したということは自分が描きたかったことを分かち合えたということだ。昨年のグランプリ作品「最強のふたり」の世界的大成功を同じフランス人として嬉しく思っている。あれほどの成功は望んでいないが、それぞれの作品にはそれぞれの道がある。この映画が描いた問題につき、新たな扉を開くことになる。また最優秀監督賞の受賞について、映画祭での女性監督の受賞は難しいと言われており、男女差があることも事実だ。しかし自分の道を歩んでいく。全女性が勇気を持って自分の道を歩むべきだとした。
ジュール・シトリュク プロデューサー ヴィルジニー・ラコンブさんは製作には4年半を費やした。受賞は名誉で誇りに思うと喜びを表現した。 日本の映画祭で出演作が2度目のクランププリとなった主演ジュール・シトリュク氏は、二度あることは三度あると笑顔を見せ、脚本を読んだ時から素晴らしい作品だと思っていたが、グランプリ受賞にとても感動している。ロレーヌ監督は賢く、繊細で、カメラワークも優れていると絶賛した。
ロレーヌ・レヴィ監督はアイデンティティをテーマに次回作も同プロデューサーと組み、すでに脚本も出来上がり、キャスティングも終えていると明かした。
なお、コンペティション審査員特別賞を受賞した『未熟な犯罪者』 (監督: カン・イグァン)は別途掲載する予定。



<受賞作品・受賞者>
■コンペティション
東京 サクラ グランプリ :『もうひとりの息子』 (監督: ロレーヌ・レヴィ)
審査員特別賞 :『未熟な犯罪者』 (監督: カン・イグァン)
最優秀監督賞 :ロレーヌ・レヴィ (『もうひとりの息子』)
最優秀女優賞 :ネスリハン・アタギュル (『天と地の間のどこか』)
最優秀男優賞 :ソ・ヨンジュ (『未熟な犯罪者』)
最優秀芸術貢献賞 :パンカジ・クマール/『テセウスの船』 撮影監督 (監督:アーナンド・ガーンディー)
観客賞: 『フラッシュバックメモリーズ 3D』 (監督: 松江哲明)
■TOYOTA Earth Grand Prix
TOYOTA Earth Grand Prix :『聖者からの食事』 (監督: ヴァレリー・ベルトー、フィリップ・ウィチュス)
審査員特別賞 :『ゴミ地球の代償』 (監督: キャンディダ・ブラディ)
■アジアの風
最優秀アジア映画賞 :『沈黙の夜』 (監督: レイス・チェリッキ)
アジア映画賞スペシャル・メンション :『ブワカウ』 (監督: ジュン・ロブレス・ラナ)
          『兵士、その後』 (監督: アソカ・ハンダガマ)
          『老人ホームを飛びだして』 (監督: チャン・ヤン)
■日本映画・ある視点
作品賞 『GFP BUNNY─タリウム少女のプログラム─』(*タイトルが『GFP BUNNY─タリウム少女の毒殺日記─』に変更) (監督: 土屋豊)
■TIFF特別感謝賞:レイモンド・チョウ

東京国際映画祭公式HP



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