脳科学者アーサー・ファンが卵に描く歩きの記憶



アーサー・ファン 卵のアート作品

 こんにちは 上野まり子です。
今回は麹町駅傍にある「麹町コレクション」で現在開催中の「Summer Exhibition」から、脳科学者であり、コンセプチュアル アーティスト、アーサー・ファン氏の卵を用いた歩きの記憶の作品をご紹介する。

アーサー・ファン アーサー・ファン氏はカリフォルニア大学バークリー校出身で、その後名門ロードアイランド造形大学でアートを学んだ。そんな彼が友人の誘いで来日したのは2009年、現在理化学研究所脳科学総合研究センターに勤務しながら、日々アート作品の製作にも取り組んでいる。

 彼の大学時代からの研究のテーマは「記憶」、そして「記憶」は壊れやすいという事。「忘れる」という事は「記憶」の崩壊とも言える。そこで日常生活の「記憶」にまつわるあらゆる事象を「モノ」として残すという事に興味を持った。たとえば来日の際にも持ち込んだ2001年から2009年の間の買い物の全レシート、その瞬間にその場にいたという記憶の証明となる。

 そんな彼がここ数年取り組んでいる代表作の一つが卵の表面に自身の通勤や散歩などの歩いた軌跡を記するアート。それはネズミを使った行動の軌跡の脳科学研究で思いついたアイディアだ。

 最初は平面に描いていた歩いた軌跡の線描。しかし平面には限りがあると感じ、我々が住む地球のような球体なら線は無限に続くと発想。身近なところから球体の素材探しが始まる。最初に思いついたのはピンポン玉、しかし表面の素材感が彼が使うオイルペンには馴染まなかった。

 試行錯誤の末にたどり着いたのが、イースターエッグにも使われる卵。壊れやすいことも「記憶」の壊れやすさに通じる。上下に小さく開けた穴から中身を出し、6か月かけて乾燥させる。そして駅やエレベーターなどのマークを加えた歩いた軌跡を「記憶」をたよりにオイルペンで線描する。それはまるで全身をめぐる神経の様だと語る。

アーサー・ファン 卵のアート作品

 最初は一回の歩いた記憶を1個の卵に黒一色で線描、一日何個もの卵作品が出来上がった。作品は時間軸を記した糸に通して一日を表現、7本並べると自身の1週間の歩いた記憶が現れる。


アーサー・ファン 卵のアート作品

 しかしその数は膨大となる。そこで新たに考え出したのが、一日を一個の卵に記するというアイディア。一回の歩いた記憶ごとにオイルペンの色を替えて表現した。すると華やかでインパクトのある作品となった。

 ところで作品の為の卵の消費数は膨大で、中身はほとんど廃棄、「もったいないと思うけど」とご本人。できれば卵の中身を使ってくれるパティシエなどとのコラボで作品の制作にあたる事ができればと話す。

 アーサー氏の背景に写っている写真もアーサー・ファン氏の作品。家屋やビルの「隙間」が面白いと麹町や番町を隈なくめぐって撮影した。アメリカではビルや家の間は広く、日本の「隙間」は珍しく感じるらしい。こうした写真作品は透明な素材にプリントされたアート作品としても発表されている。

最終日8月22日(土)にはギャラリートークやワークショップも開催される。
ご興味のある方はこちらをご覧ください。

コンセプチュアルアーティスト アーサー・ファン HP

麹町コレクション
千代田区麹町3-3-8 麹町プリンス通りビル1F
営業時間 月〜土 11:00〜20:00
03-6380-8785
FaceBooK
次回8月24日からは「森の囁き」展開催



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